研究会の概要
目的
人類は、地球生命全体の進化から見れば、ごく最近(約700万年前)までチンパンジーやボノボなどの大型類人猿とともに進化の過程を歩んできた。本共同研究課題に連なるこれまでの一連の共同研究では、こうした進化的根拠をもつ人類が獲得した高度な社会性(sociality)を種の成立における最重要な特質とみなし、これを実証的かつ理論的に解明することを目的としてきた。まず、比較的顕在化した社会事象である「集団」を取りあげて、組織化されたsocietyよりもむしろ非構造の集まりに着目し、その構成原理として社会的絆(relatedness)を指摘した。次にこの絆を形づくる決まり事として「制度」を取りあげ、それが時に無意識下におけるコンヴェンショナルな様態を呈することを示した。さらに、「制度」の本態に「他者」を位置づけて、その顕現のありようを画定した。本研究課題は、以上の三課題のすべてに通奏低音としてあった「環境」と、そこでの「生存」を意識化し、その極限的な局面を詳らかにすることを目指す試みであり、人類の社会と社会性の進化についての理論構築にとって大きな一歩となる。
期待される成果
本共同研究課題は、「集団」「制度」「他者」といった一連の共同研究の成果を束ねつつ、「環境における生存」をキーテーマに、その様態の極限を見定めようとするものである。「生存」はまずは生物学的/生態学的に捉え得るが、人類を含む霊長類が群居性動物として生きる以上、そこには社会的な要素が存在し、それ故にその方法(生存戦略)は、非決定論的で可変的(フレキシブル)でコミュニケーショナルなものとなる。この点を焦点化することにより、人類の社会と社会性の進化の解明に向けた新たな視座が示されることが期待される。
実施計画
本共同研究課題は3年計画とし、各年度に5回の研究会を開催する。研究会では霊長類社会/生態学、生態人類学、社会文化人類学という3つの学問分野に与するメンバーが、おのおの長期にわたるフィールドワークによって蓄積されたデータと最新の理論的知見に基づいて報告をし、これに対してメンバーの全員で総合ディスカッションをする。本共同研究課題のメンバーのほとんどは、「集団」、「制度」、「他者」をそれぞれテーマとした「人類社会の進化史的基盤研究 (1)、(2)、(3)」のいずれか、ないしすべてのメンバーであり、これら3つの視点から人類の社会性の進化に関する互いの分野の知見を共有している。本共同研究課題はこれらの共同研究の到達点を出発点とするとともに、全体の総括を目指すものでもある。具体的に関連する現象としては、環境(生態系)破壊/保全、生物多様性、絶滅危惧、生涯、生死、生命倫理、限界集落、等を想定している。
成果報告
研究成果の公開計画は以下のとおりである。①成果公開を迅速におこなうために、AA研のウェブサイトのほかに、本ウェブサイトに定例の研究会をはじめ、シンポジウムや分科会等の開催予定、およびそれらの内容や報告要旨等の記録を随時、更新、公開する。②これまでの「人類社会の進化史的基盤研究 (1)、(2)、(3)」および本共同研究課題を包括的に扱い、その全体に通底する個別テーマ(縦割りのテーマ)のもと、日本人類学会の進化人類学分科会、日本霊長類学会の自由集会、AA研の基幹研究人類学班の公開シンポジウムなどにおいて成果の公開に努める。また、AA研の学術広報誌『フィールド・プラス』の巻頭特集にも「ともに生きるー霊長類学と人類学からのアプローチ」というタイトルで掲載が決まっている(第14号、2015年7月刊行予定)。③本共同研究課題の終了後、その翌年度(2018年度)中に印刷媒体による成果論集を編集、刊行する。これはAA研の共同研究課題出版費に応募してAA研の出版物とするとともに、商業出版による刊行をも同時に目指す。